読書 福岡 伸一 『動的平衡2』

福岡 伸一 『動的平衡2』を読む。

「なぜ食べ続けなければならないか」
私たちは、なぜ食べ続けなければならないのか。それは生体内で絶え間ない分解と合成が繰り返されているためである。食物に含まれるタンパク質はアミノ酸に分解され、体内に吸収されると、一部はタンパク質に再合成されて筋肉や臓器などを作る。人体の構成成分のうち約20パーセントは20種類のアミノ酸が結合してできたタンパク質だ。人はアミノ酸を摂るために食べているのである。
体脂肪のようなエネルギーの貯蔵形態とは異なり、基本的に私たちはタンパク質を「貯める」ことができない。体を構成しているすべてのタンパク質は、高速度の分解にさらされている。だから、私たちは毎日、およそ60グラムのタンパク質を分解して体外に捨てて、毎日60グラム(乾燥重量)のタンパク質を食品として摂取し続けなければならない。
では、なぜ、体はタンパク質をタンパク質として吸収せず、わざわざ分解と合成を繰り返すのだろうか。それは、生命には「時間」があるからだ。いかなる生命も行きつく先は死である。しかし、分解と合成を繰り返し、自分の身体の傷んだ部分を壊しては作り直すことで、生命は一直線に死に向かうことに抵抗しているのである。

「生命は水でエントロピーを捨てている」
自然現象はすべてエントロピーが増大する方向へ、すなわち乱雑さが大きくなる方向へ進む。その中にあって、ひとり生命体だけが細胞を組織化し、エネルギーを産み出し、酸化されたものを還元し、傷ついたDNAを修復できる。つまりエントロピーの増大に抗して秩序を構築できる。
それは、流れる水が身体の内部に発生するエントロピー=乱雑さうぃ常に体外に排出してくれるからだ。それゆえに、私たちが健康でいるためには、この流れを絶やさないこと、すなわち水をたくさん摂取することが何にもまして重要となる。

生命体の流れの中からエントロピーを排出してくれるのは、腎臓である。腎臓ほど精妙にできた濾過装置もない。
腎臓は一度汚れた血液を全部捨ててしまうのだ。そののちに、細い管を通過するプロセスで必要なイオンや栄養分を選択的に再回収する。ここで回収されなかったものは尿となって排泄される。このようなシステムを用いれば、システム内部にゴミ=エントロピーが蓄積する心配がない。なんとクレバーなことだろう!

「常に分解していることの大切さ」
消化吸収においては、食物に含まれる栄養素の分子はいったん解体され、また体内で再合成される。食物はすべて他の植物や動物の一部であり、そこにはその生物固有の情報が含まれている。もし食物分子が、その持ち主の情報をもったまま私たちの体内に入ると、その情報と体内の情報系とのあいだで摩擦が生じる。これが拒絶反応やアレルギー反応である。

細胞はどのような事態にでも対応できるよう、ものすごいコストをかけて分解のための大きなキャパシティとバックアップシステムを用意している。平時であればムダなコストのようでも、長いスパンでみれば、いつ何が起きるかわからない状況に備えて、その仕組みが準備されている。
秩序を長期にわたって維持するためには「なくす/元に戻す/守る」の要素、つまりゼロテクノロジーに十分な余裕が必要なのである。

「細胞は相互補完的に役割を決める」
細胞たちはお互いのコミュニケーションを通して、相互補完的に自分の役割を決めていくのである。
それに応じて、DNAの中から専門化に必要な情報を読み出し、細胞はそれぞれの分化を進めていく。細胞のコミュニケーションは、バーチャルなものではなく、どこまでもリアルなものである。細胞はお互いに接触し、分子を交換し合う。文字通り、フェース・ツゥ・フェイス。
自分のあり方は関係性に依存する。それゆえに、生命は柔軟で可変的であり、また適応的なのだ。

 

読書 福岡 伸一著 『生物と無生物のあいだ』

福岡 伸一著 『生物と無生物のあいだ』を読む。

ルドルフ・シェーンハイマー
「身体構成成分の動的な状態(The dynamic state of body constituents)」
「生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。」

 

 

読書 福岡 伸一著 『動的平衡』

福岡 伸一 『動的平衡』を読む。

生体を構成している分子はすべて高速で分解され食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作りかえられ、更新され続けているのである。

だから私たちの身体の分子的実体としては、数か月前の自分とは全く別物になっている。分子は環境からやってきて、一時淀みとして私たちを作り出し次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。

シェーン・ハイマー
「生命の特異的なありようを「ダイナミック・ステイト(動的な状態)」と表現した。

福岡 伸一
「生命とは、動的平衡にあるシステムである。」

可変的でサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造基盤、つまり構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす「効果」であるということだ。生命現象とは「構造」ではなく「効果」なのである。
サスティナブルなものは常に動いている。その動きは「流れ」もしくは環境との循環の輪に中にある。サスティナブルは、流れながらも環境との間に一定の動的平衡状態を保っている。サスティナブルであることは、何か物質的・制度的に保存したり、死守したりすることではないことがおのずと知れる。
サスティナブルなものは一見不変のように見えて実は常に動きながら平衡を保ちかつわずかながら変化し続けている。その軌跡と運動のあり方をずっと後にになって「進化」と呼べることに私たちが気づくのだ。

「エントロピー増大の法則」
時間を戻すこと、つまり自然界の事物の流れを逆転することは決してできないという事実。

「生命の準備」
エントロピー増大の法則に先回りして、自らを壊しそして再構築するという自転車操業的なあり方、つまり「動的平衡」という準備をした。
しかし、長い間、「エントロピー増大の法則」と追いかけっこしているうちに少しずつ分子レベルで損傷が蓄積し、やがてエントロピー増大に追い抜かれてしまう。つまり、秩序が保てない時が必ず来る。それが個体の死である。
ただ、その時には、既に自転車操業は次の世代にバトンタッチされ全体としての生命は続く。
個体が死ぬというのは、本質的には利他的なあり方である。致命的な秩序の崩壊が起きる前に秩序は別の個体に移行しリセットされる。

「生きている」とは、「動的平衡」によって「エントロピー増大の法則」と折り合いをつけていることであり、換言すれば、時間の流れにいたずらに抗するのではなく、それを受け入れながら共存する方法を採用している。