京井 良彦 著 『つなげる広告 共感、ソーシャル、ゲームで築く顧客との新しい関係』 を読む。

ソーシャルメディア時代へ対応を進める企業
米調査機関のフォレスター・リサーチによれば、企業のソーシャルメディア対応の成熟度は、業種、地域、顧客層の違いに関わらず、共通の変化を遂げていく。
(5) ラガード(遅延者):休眠段階
これらの会社は非常に保守的で規制が多い。または興味がない。
(4) レイト・マジョリティー(後期多数採用者):テスト段階
ソーシャルメディアを導入したが組織のポケットの中で開始したに過ぎず、混沌が分散している段階。
(3)アーリー・マジョリティー(前期多数採用者):調整段階
マネジメントがソーシャルメディアから得られるメリットとリスクを認識し、リソースを割いて管理を始めた状態。分散した混沌から中央集権的なアプローチになり、組織全体で一貫性を持つようになる。
(2)アーリー・アダプター(初期採用者):拡大、最適化段階
スターバックスや、コカ・コーラ、家電量販店ベストバイのように、リーダーがソーシャル化した各組織を連携させ、マーケティングにおけるソーシャルメディア活動の最適化と統合化を行っている。
(1)イノベーター(革新者):社員への権限移譲段階
オンラインシューズ販売のザッポスなどごくわずかな企業だが、全関係社員がトレーニングを積み、ソーシャルメディアを活用するのに権限委譲がされている。
このように企業がソーシャルメディア時代に対応しようという動きは、「ソーシャルシフト」と言われ、この流れは加速することはあっても元に戻ることはありません。なぜならソーシャルメディアは一過性の流行ではなく、インフラとして普及していくものだからです。
ソーシャルメディアの浸透は、情報の流れと人間のマインドに大きな変化をもたらします。情報は人を介して伝播するようになり、生活者はこれまでと違った価値観に基づいて行動するようになります。そのため企業と生活者のコミュニケーションスタイルは、大きな転換点を迎えているのです。
広告は「対話」へ。「伝える」ために「つなげる」
ソーシャルメディア上では、価値ある情報ほど関係が構築された人につながりを介して伝わるようになります。情報がつながりの上で伝わるのであれば、企業は生活者とのつながりを持たなければなりません。つながり上のコミュニケーションは、従来型の「一方的に伝える」ことから、「対話の成立」という、より本質的なものになる。
よって、ソーシャルメディア時代の広告には、企業と生活者の本来のコミュニケーションを実現するため、両者を「つなげる」という役割が求められる。
ソーシャルメディア時代のコミュニケーションでは、従来と違うメカニズムが働きます。つながった生活者は他の生活者ともつながっていることを理解する必要しなければなりません。つながりの上を情報がどのように伝播していくかを理解する必要もあります。そして何よりも重要なことは、生活者のマインドの変化と長期にわたってつながり続けることの重要性を理解することです。
「つなげる広告」には、3つの「つなげる」の意味を込めています。
(1)企業と生活者、生活者と生活者をつなげる「関係の構築」の意
(2)その上をバトンリレーのようにつなげて広がる「自走するコンテンツ」の意
(3)単発で終わらない、次につなげる「持続性、継続性を保つ仕掛け」の意
ソーシャルメディア時代では、企業と生活者がつながり、両者が一緒になってブランドの未来を共創していくべきです。広告は3つのつなげる力によって、そんな企業と生活者が対話を続けていく環境を支えていくべきだと思うのです。
友人の声こそ情報フィルター
ソーシャルメディア時代には、いろんなソーシャルツールと人力のコラボレーションで、情報を選別するようになります。逆にここのふるいで落とされた情報は、その時点で価値を失ってしまいます。友人に推薦された情報は、フィルターをくぐりぬけてきたというだけで一定の価値が保証されるので、さらにその友人に薦められる可能性が高まります。
このようにして、価値のある情報だけが、人と人とのつながりを介して流れるようになるわけです。
企業から発信する情報は、超がつくほどの情報過多の中で、共感という友人の推薦を獲得してフィルターをくぐりぬけていかなければなりません。しかし、一度、受け手の共感を獲得すると、「いいね!」やシェアやリツイートという行動を促し、友人にその受け手の推薦とともに自動的に届けられます。新たな友人にとっても、友人からの推薦付きの情報ということで、新たな共感を生みやすいものになっています。
こうして人の共感をまとった情報は、まるで自らの力でつながりの上を走っていくかのように加速度的にどんどんと拡散していくのです。
共感情報の自走パワーは凄まじく、個人が発信する情報が共感の力で拡散し、そういった仕組みを理解していない大企業を揺るがすということも起きている。
広告はプロセス・マネジメントは大事に
ソーシャルメディア上で流通する情報は、完全に生活者によるオーガニックなもので、企業側がコントロールはできません。コントロールが難しいのではなく、コントロールは不可能なのです。これを無理にコントロールしようとすることが原因で炎上などが起きる場合がある。
ブランドは人間になり、物語が求められる
ブランドは、「ベストショット」だけでなく、いい面もよくない面も全てが見られるようになってしまいます。要するに、ブランドも人と同じように長所もあれば短所もある、キャラクターとでも言うような愛すべき「人格」ができるということです。企業活動やコミュニケーションの全てがさらされることによって、そのブランドには人間のような性格付けがされていくわけです。逆に言えば、日ごろの活動や、コミュニケーションが積み上げられて形成される人格こそが、ブランドそのものになるということでもある。
こうなると、「何を言っているのか?」という情報発信の内容もさることながら、「誰が(つまり、どんなブランドが)言っているのか?」ということがより重要になってきます。
企業のフェイスブックページがタイムラインに移行したことで、ブランドはより人間的な人格が表れるものになりつつあります。タイムラインを通じてブランドのヒストリーを見ることにより、人間に一生があるように、ブランドにも一生があることが感じられるようになるのです。
企業やブランドの広告が生活者との信頼を築いていくためのコミュニケーションは、常にこのようなブランドヒストリーの延長上になければならない。
ソーシャルメディア時代には、企業やブランドが日ごろどういう活動をしているかの積み重ねがコミュニケーションの前提になるため、脈絡もなくセールスメッセージを発信したり、表面的なイメージだけを取り繕ったりしてもあまり意味がなくなります。
こうなると広告は、人格を持つ企業やブランドの人生の一部に接してもらうという意味が強くなります。企業やブランドの人生という物語に接してもらい、共感してもらい、つながっている友人や知人とどんどん共有してもらうということです。
ブランドは人間になり、広告は生活者をその人生の物語に案内するという役割を持つようになるわけです。