読書 池田 信夫 『イノベーションとは何か』

池田 信夫 『イノベーションとは何か』を読む。

”イノベーションとは何か”
池田 信夫著 『イノベーションとは何か』

「イノベーションとは何か」と題したビジネス書はたくさん出ているが、そのほとんどは過去の成功事例を列挙して結果論をのべたものだ。たとえば、「スティーブ・ジョブズは大好きなことをしたからイノベーションを実現した」という事実が正しいとしても、そこから「大好きなことをすれば常にイノベーションが実現できる」という法則は導けない。成功事例を事後的に説明することは容易だが、理論なしにデータをいくら集積しても、どうすれば成功するかは事前にわからないのだ。

イノベーションを理解するという目的にそって使うのが本書の特徴といえよう。本書の柱となる仮説を最初に列挙すると、以下のようなものだ。

1.技術革新はイノベーションの必要条件ではない:
すぐれた技術がだめな経営で成功することはまずないが、平凡な技術がすぐれた経営で成功することは多い。重要なのは技術ではなくビジネスモデルである。

2.イノベーションは新しいフレーミングである。:
マーケティングで顧客の要望を聞いても、イノベーションは生まれない。重要なのは仮説を立て、市場の見方(フレーミング)を変えることである。

3.どうすればイノベーションに成功するかわからないが、失敗には法則性がある。:
大企業が、役員の合意でイノベーションを生み出すことはできないし、特許のノルマでイノベーションが生まれることもない。

4.プラットホーム競争で勝つのは安くてよい商品とは限らない:
技術競争は、「標準化」ではなく進化的な生存競争だから、すぐれた規格が競争に勝つとは限らない。むしろ新しい「突然変異」を拡大する多数派工作が重要だ。

5.「ものづくり」にこだわる限り、イノベーションは生まれない:
特に情報産業の中心はソフトウェアであり、それは同じ製品を大量生産するものづくりではなく、ひとつの作品をつくるアートだから、要求されるスキルが製造とはまったく違う。

6.イノベーションにはオーナー企業が有利である:
事業部制のような複合型組織は、規模の経済の大きい製造業では有効だが、ソフトウェアを中心とする情報産業ではオーナー企業が有利である。

7.知的財産権の強化はイノベーションを阻害する:
特許や著作権がイノベーションに与える影響は、中立かマイナスという実証研究が多い。いま以上の権利強化は法務コストを増大させ、イノベーションを窒息させる。

8.銀行の融資によってイノベーションは生まれない:
ハイリスクの事業を行うには、株式などのエクイティによって資金調達する必要がある。銀行の融資や個人保証は危険である。

9.政府がイノベーションを生み出すことはできないが、阻害する効果は大きい:
政府はターゲッティング政策から手を引き、インフラ輸出などの重商主義的な政策もやめるべきだ。

10.過剰なコンセンサスを断ち切ることが重要だ:
イノベーションを高めるには、組織のガバナンスを改める必要がある。特に日本的コンセンサスを脱却し、突然変異を生み出すために、資本市場を利用して組織を再編することが役に立つ。

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