読書 本田 哲也 池田 紀行 『ソーシャルインフルエンス 戦略PRxソーシャルメディアの設計図』 アスキー新書

本田 哲也 池田 紀行 『ソーシャルインフルエンス 戦略PRxソーシャルメディアの設計図』を読む。

”ソーシャルインフルエンス”
ソーシャルインフルエンス

第2章 ソーシャルメディアマーケティングのこれから

ソーシャルメディアのユーザを「コンテンツ」や「メディア」として捉えるのではなく、自社やブランドの「消費者」「顧客」として捉えなおし、エンゲージメントを促進させよう、という流れに潮目が変わった。マーケティングの原点に回帰したのだ。

消費者との中長期的な関係性づくりにおいては、「エンゲージメント」の概念が重要になる。自分に興味を持ってくれない相手に対して、いくら一方的に情報を送っても、他人ゴトとしてスルーされてしまう。自分に無関心の相手に興味を持ってもらうためには、「自分が」ではなく、「相手に」関与してもらう必要がある。エンゲージメントは、「関わり合い」と表現することができる。企業と消費者が相互に関わり合うことによって関係性を深め、興味を持ってもらったり、好きになってもらうのだ。

一言でエンゲージメントといっても、ファンとの関わり合いと低関与層との関わり合いは全く異なる。その時に参考になるのが、ラダー・オブ。エンゲージメント(エンゲージメントのはしご)という考え方だ。
ラダー(はしご)の下には、商品への低関与層でも関わり合うことができるプログラムを用意する。
次に、少しだけ興味を持ってくれている消費者には、ソーシャルメディアの公式アカウントをフォローしてもらい、「いいね!」やコメントなどをつけてもらうことで、徐々に双方向コミュニケーションを開始する。
さらに関係性が深まると、ことちらが投稿した情報を友人・知人にシェア/RT(リツイート)をしてくれたり、ユーザ自らがツイッター、フェイスブック、ブログなどへ商品情報を投稿してくれるようになる。そしてキャンペーンへの応募、メルマガへの登録、イベントなどへの参加と、よりユーザとブランドの距離感を縮めていく。
最終ゴールは、商品の連続購入(ロイヤルカスタマー)よりもさらに進んで、友人や知人への推奨者(エバンジェリスト)になってもらうことだ。この段階まで行くと、消費者とブランドの間には強い感情的・情緒的関係性が築けている。エバンジェリストは、ブランドの好意的な情報を積極的に共有してくれる心強いマーケティングパートナーになってくれる。
低関与層、公式アカウントのファンやフォロワー、メルマガやイベントなどへの参加者、ロイヤルカスタマー、エバンジェリストなど、ターゲットごとにエンゲージメントプログラムを準備し、それぞれのレイヤーに属するユーザに一段一段はしごを上っていてもらう設計を施すことが大切なのである。

第3章 「戦略PR」の登場(本田 哲也)

モノが売れるまでに立ちふさがる「2つのハードル」
企業から消費者に商品の良さを伝えたいと思っても、その情報伝達を「2つのハードル」がジャマしている。1つは、「量のハードル」、もう一つは、「質のハードル」だ。
「量のハードル」とは、インターネットの出現と発達にともなって生まれた情報の洪水状態のこと。
日本企業は、自社製品をアピールするために、実に細かいスペックの違いを広告メッセージに打ち出してきた、だがその結果、日本の消費者はいい具合に目が肥え、市場が成熟してしまった。そうして生まれたのが「質のハードル」だ。
消費者は、商品に関する細かな情報に接してきたことで、モノを買う前に情報収集したり比較検討したり、他の人の感想を確かめる、といった行動をより多くはさむようになった。

商品を売るために必要な「空気」
多くのヒット商品が生まれるのは、今という時代に合わせた「売り方」「伝え方」がある。これは商品の良し悪しや宣伝コストとは別次元の話。それが「戦略PR」というノウハウだ。
そもその今の世の中でモノが売れるか、売れないかは、その商品が売れるための「空気」(「場の雰囲気」「ムード」堅苦しい言い方をすれば「人々が暗黙のうちに共有する情報の集合体」)ができているかどうかにかかっている。
消費者は「空気」を共有することで、新しい「トレンド」「価値観」「問題」の存在に気付く。そこで、その空気に呼応するようにして「トレンドに中心にある商品」「価値観のシンボルとしての商品」「問題の解決策としての商品」を提示できれば、そのモノが売れるチャンスは大きく広がるからだ。消費者にとってその商品は「みんながほしかったモノ」だから、受け入れやすいのだ。このような「空気」は、自然と生まれることもあるし、作り出すこともできる。この「商品が売れるために作り出したい空気」を僕は、「カジュアル世論」と呼んでいる。

空気を生み出す戦略PRのノウハウ
戦略PRでは、多様なメディアを組み合わせ、いかにさまざまな情報発信を行うかもプランニングする。いかに広く消費者の関心を集めるか、の作戦もたてるのだ。
このような戦略PRの2つの視点は、次のようにまとめることができる。
1.戦略PRでは、戦略的なテーマ設定を行う
2.戦略PRでは、戦略的なチャネル設計を行う

「テーマ設定」のコツ
「商品の便益を消費者の関心に関連づけてPR内容を策定する」といったことになる。

「チャネル設計」のコツ
テーマ設定後の情報発信では、3つの視点からメディアを利用する必要がある。
1.「おおやけ」感を生み出すために 「マスコミ」の活用
2.「ばったり」感を生み出すために 「クチコミ」の活用
3.「おすみつき」感を出すために 「インフルエンサー」の活用

「おおやけ」とは、「公(おおやけ)のこと」。組織や世間一般に関わっていることだ。つまり、モノゴトに対してある種のカジュアル世論が生まれるには、世間で広く共有されていることが必要ということ。(公共性)
マスコミに取り上げてもらうことで、「この話題は、日本中でたくさんの人に知られている」と消費者に思ってもらい、設定したテーマに「おおやけ感(公共性)」を付与する効果は絶大だ。

「ばったり」とは、偶然出会う様子のこと、カジュアル世論の形成には、消費者が情報に接する際にある種の「偶然性」を持たせる必要もある。
この「ばったり」感を演出するには、クチコミの活用が欠かせない。
最近は、ソーシャルメディアで情報共有が浸透し、消費者がネット上で情報発信や情報シェアを行うことは、すっかり日常になった。これによってクチコミは、「ある程度」意図的に仕掛けられるものとなった。「クチコミを起こす人」を見つけられるようになったからだ。彼らにアプローチできれば、好意的なクチコミをネット上に広げて、「ばったり感」の下地にすることも不可能ではない。

「おすみつき」とは、「お墨つき」のことで、「影響力のある第三者」が関与、推奨することで、「あの人が薦めるんだから問題ない!」と感じさせることが必要(信頼性)。
インフルエンサーとは、何らかの専門領域を持っていて、その領域で一定以上の知名度、影響力を持っている人のこと。
インフルエンサーを戦略PRに巻き込むには、とにかく誠心誠意「人間関係づくり」を丁寧に行うこと。そうして、インフルエンサーの協力を取り付けることに成功したら、調査の監修、コンテンツや商品企画などの監修、セミナーでの講演、イベントへの出演、アレンジしたマスコミ取材への対応、といった活動をお願いすることが可能になる。

しかし、カジュアル世論の形成がうまくいったとしても、それだけではモノは売れない。

カジュアル世論と広告の連動
「戦略PRはカジュアル世論をつくってニーズを掘り起こす。広告はその解決策を提示する」という連動が一番うまくいくのではないかと思う。
カジュアル世論を形成することで、消費者に「気づき」を与え、「買う理由」を生み出す。そんな「買う理由ができた状態」の消費者に、「あなたが探している商品はこれではないですか?」と広告する、というわけだ。

 

第4章 「ソーシャルインフルエンス」を生み出す(池田 紀行)

ソーシャルインフルエンスの設計において最も重要であり、すべての考え方の土台になる「自分ゴト化x仲間ゴト化x世の中ゴト化のデザイン」の方法について整理する。

自分ゴト化のデザイン
自分ゴト化されていない情報は仲間ゴトも世の中ゴト化も進まない。
「この情報は自分に必要な(価値ある)情報だ」と感じてもらうことが最も重要な作業になる。
情報があふれかえり、ほとんどのことが無関心、他人ゴトの中で生活している消費者を「自分ゴト化」させるためには、興味のない対象物に「新たな意味づけ」をしてあげなければならない。それがコンテキストプランニングという考え方だ。

仲間ゴト化のデザイン
仲間ゴトを促進させるために最も重要なのは、共有されやすいコンテキストづくり、つまりトーカブル(Talk-able:話したくなる要素)、バザブル(Buzz-able:話題になる要素)なネタになっているかどうかである。人は感情が動いたときにそれを他の誰かに伝えたくなる。誰かに伝えることで感情的なバランスを保とうとするのだ。
僕はそれを「琴線スイッチ」と呼んでいる。面白い、(良い意味で)バカバカしい、インパクトがある(驚きがある、新たな発見がある)、考えさせられる、感動する-。人間には、感情が動くいくつかのスイッチがある。このスイッチを押さない限り。自分ゴト化はされても、仲間ゴト化は発生しない。「誰かと共有したい」という動機が生まれないからである。
話題の共有・拡散は、足し算ではなく掛け算だ。「自分ゴト化」と「仲間ゴト化」のどちらかがゼロになれば、合計はゼロになる。
もうひとつ大切なことは、自分ゴト化され、誰かにそれを伝えたいと思ったときに、共有されやすいコンテンツやフォーマット(シェアブル:shar-ableな仕様)になっているかどうかである。
仲間ゴト化は、偶然の産物ではなく、マーケターによる緻密な「企て」なのである。

世の中ゴト化のデザイン
ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアが持つ本来の強みには3つかる。
・拡散性 Spreadable
・共有性 Sharable
・常時性 Always On
情報が次から次へとまるでウィルスのように伝播していく動的な拡散性、共感したり価値ある情報を友人や知人とすぐさまシェアすることができる共有性、そして、いつも隣で一緒にいることができる常時性である。

会話されるニュースをつくる
ソーシャルインフルエンスを最大化させるため重要なのは、「ソーシャルメディアで話題になるネタをつくり、それをニュース(記事)として露出させること」である。

キャンペーンセントリックからオールウェイズオンへ
いままでのキャンペーンセントリック型(短期的なキャンペーンによるアプローチ)を反省し、オールウェイズオン(いつもユーザに寄り添って中長期的なブランドコミュニケーションを図ることでエンゲージメントを高めてくいく)という考え方だ。
新商品のローンチや商品リニューアル、その他シーズナリーキャンペーンごとに知恵を絞って大量の広告予算を投下してきたが、それら施策が「投資」として蓄積されたいない。キャンペーンをおこなえば、企画内容や広告予算に応じてそれなりのバズを発生させることはできるものの、それが次につながらない。1回のキャンペーンでリーチしたユーザーと、そのときだけの関係でなく、それをスタートラインにして関係性を育んでいきたい。次にキャンペーンを打つ場合、前回のキャンペーンで接点のあったユーザーにもう一度告知したり、参加してもらいたい。企業はいま、過去のキャンペーンセントリックな時代に分かれを告げ、ユーザーとの「継続性」のある関係性づくりへシフトしたいと考えているのだ。
短期的なキャンペーンによるバズの最大化を、オールウェイズオンの施策によってつなげることで、「投資」としての効果を蓄積できるようになる。

広告だけで興味を喚起することは難しい
『ブランドは広告ではつくれない PR vs 広告』の中で、
「PR first,Advertising Second.(最初にPR、その後に広告)」
という一節がある。「いきなり広告を打つのではなく、まずPRによって世の中ゴトをつくってから広告を打った方が効果が高いですよ」ということがまとめられている。

瞬間的な話題(ファッド)を長期化(ブーム化)する
話題の寿命(ライフサイクル)について解説する。
話題には、数日で一気に盛り上がって消滅するFad(ファッド)、数か月程度続くBoom(ブーム)、1年程度継続するTrend(トレンド)の3つがある。
また、話題のライフサイクルは話題化のスピードとほぼ同じくらいの時間尾をかけて消滅していく。だから、一気に話題になったものは、その分、寿命も短い。

ファッドをブームやトレンドに押し上げていくためには、「おおやけ」「ばったり」「おすみつき」のポジティブサイクルをまわさなければならない。そのためには、ソーシャルメディアでの仲間ゴト化だけでは不十分だ。いかにマスメディアによる刺激を与え続けることができるか。

話題のエクステンション(拡張)xマスメディアでの継続的露出の掛け算がソーシャルインフルエンスを長寿化させる肝になる。

 

 

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